
皆さんは「ラリー」というクルマの競技をご存知でしょうか。クルマの競技=モータースポーツと聞くと、真っ先に思い浮かべるのはサーキットを駆け抜けるスピード感あふれるレースかもしれません。しかし、モータースポーツの中でも一般公道を舞台にした競技があり、それが「ラリー」です。ラリーは、普段私たちも利用する一般公道や、時には林道や雪道といった閉鎖された道を舞台に、ドライバーとコ・ドライバーのペアが力を合わせて走行し、その総合タイムを競います。
取材・文:若林葉子
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目次
初心者も参加でき、観戦も楽しめるTOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジ

サーキットレースが「速さ」を追求するソロ競技であるのに対し、ラリーはドライバーとコ・ドライバーによる「チーム競技」です。ドライバーはハンドルを握り、コ・ドライバーは事前に作成した「ペースノート」と呼ばれる走行指示書を読み上げ、次に現れるコーナーの曲がり具合や路面の状況などを的確に伝えます。この息の合ったコンビネーションが、ラリーの勝敗を大きく左右するのです。ルートマップ(走行のための地図)を読み解き、レッキ(試走)でペースノートを作成する作業も、このチーム競技の重要な要素となっています。
TOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジは、そんな奥深いラリー競技への「エントリーカテゴリー」として、多くのモータースポーツファンに親しまれています。その歴史は古く、すでに25年もの長きにわたって日本のモータースポーツシーンを底支えしてきました。
このラリーチャレンジが多くの参加者を集める理由の一つに、参加のしやすさがあります。GRヤリスやGR86といったスポーツカーはもちろんのこと、アクアなどのハイブリッド車やAT車、はたまた要件を満たせば旧車でも参加が可能です。エントリーフィーや装備についても、初心者が気軽に挑戦できるような環境が整えられており、実際に参加者には初心者が多いです。
TOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジは、日本全国で年間11戦、さらに特別戦が開催されています。南は九州、北は北海道まで、それぞれの地域が持つ特色あるコース設定で、参加者はもちろん、観戦に訪れる人々も各地域の魅力を肌で感じることができます。また身近な場所で開催されれば、ドライブがてら気軽に観戦に訪れることができるのも、このラリーチャレンジの大きな魅力です。
暑さに負けず歓声が沸きあがった渋川伊香保

今回、取材したのは、2025年6月28日/29日に開催された第7戦、群馬県渋川伊香保ラウンドです。梅雨時期にもかかわらず、当日は晴天に恵まれ、今夏の最高気温を記録する猛烈な暑さとなりました。しかし、渋川伊香保のラリー会場はその熱気に負けないほどの盛り上がりを見せていました。
この渋川伊香保戦には、参加上限台数の90台のラリーカーがフルエントリー。ドライバーとコ・ドライバーを合わせると総勢180名もの選手が参加しました。特筆すべきは、初参加のドライバーが22名、コ・ドライバーが25名と、約4人に1人がラリー初挑戦だったこと。さらに、女性参加者が約1割を占めていたことも、このラリーチャレンジが目指す「誰もが気軽に楽しめるモータースポーツ」というコンセプトを象徴していると言えるでしょう。参加者の皆さんの表情からは、競技への真剣さと同時に、ラリーを心から楽しんでいる様子が印象的でした。


イベントの拠点となったのは、渋川市総合公園に設けられた「TOYOTA GAZOO Racing PARK」です。ここでは、競技の出発式であるセレモニアルスタートが華々しく行われました。猛烈な暑さにもかかわらず、スタート地点には多くの観戦者が集まり、ラリーチャレンジの旗を振りながら、1台1台、選手たちを熱い声援で送り出しました。

ラリーパーク内の観戦スポットでも、多くのラリーファンが陣取り、スペシャルステージを駆け抜けるラリーカーに大きな歓声を上げました。クルマの展示エリアでは、WRC(世界ラリー選手権)のレプリカ車両や歴代セリカ、さらには働く車なども展示され、子どもから大人まで多くの来場者が目を輝かせていました。

そして、この日のハイライトの一つとなったのが、日本を代表するプロのラリードライバー、新井敏弘選手によるスペシャルデモランです。今か今かと待っていた観客だけでなく、エンジン音が唸りを上げると、遠くからその音を聞きつけて、さらにたくさんの人たちが一目見ようと駆けつけてきました。世界の舞台で活躍するトップドライバーの妙技は多くの観客を魅了しました。

ラリーパークでは、渋川伊香保の名産品販売ブースや、地元グルメが楽しめるキッチンカーも多数出展され、家族連れがピクニック気分で楽しめる空間となっていました。熱いラリー観戦の合間に、木陰で涼みながら、冷たい飲み物やかき氷を楽しんだり、群馬県の名物駅弁である峠の釜飯や、ブランド牛の赤城牛など、美味しい地元料理を味わったりと、来場者それぞれが思い思いの時間を過ごしていました。

地域と手を取り合って盛り上げるラリーツーリズム

TOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジが大切にしているコンセプトの一つに、「ラリーツーリズム」があります。ラリーという競技は、一般道を使用するため、地域の協力なしには開催できません。そのため、開催地である地域への「恩返し」という意味も込め、地域と手を取り合って、地域の振興に寄与したいという強い思いが込められています。
同時に、ラリーツーリズムには、モータースポーツをより多くの地域の人々に知ってもらい、ファンを増やしたいという願いも込められています。今回の渋川伊香保ラウンドでは、13,000人もの来場者が集まったと発表されており、地域全体でラリーを盛り上げようとする熱意が感じられました。
このラリーチャレンジでは、ラウンドごとにその地域に詳しいオーガナイザーがコースを作成しています。これは競技の難易度を上げることが目的ではなく、競技者にとっても走りがいがあり、観戦者にとっても見どころのあるコースを作り出すためです。伊香保の場合は、ラリーカーが伊香保温泉のシンボルである石段の下を通るリエゾン区間(競技と競技の間の移動区間)が設けられており、これこそ「伊香保ならでは」の、地域とラリーが融合した景観と言えるでしょう。
ラリーをきっかけに、地域のおいしいものや観光名所に親しんでもらおうというラリーツーリズムの取り組みは、地域経済の活性化にもつながっています。実際に、渋川伊香保の街中では、ラリー関連のイベントと合わせて、温泉街や周辺の観光スポットを訪れる観光客の姿も多く見られました。モータースポーツイベントが、単なる競技に留まらず、地域文化や観光と結びつき、新たな魅力を生み出している好事例と言えます。
伊香保を堪能したら、碓氷峠をくねくねドライブ

この地域は、人気漫画「頭文字D(イニシャルD)」の舞台としても広く知られており、作中に登場する場所を巡る「聖地巡礼」に訪れるファンも後を絶ちません。渋川市内には「頭文字D」のキャラクターたちが描かれた、デザインマンホールのふたが7か所に設置されています。これらを探しながら市内を巡るのも、楽しいアクティビティになるでしょう。
また、TOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジの公式ウェブサイトでは、イベントと合わせて楽しめる「おすすめのお泊まり観戦コース」が紹介されてます。観戦に行かれる際には、ぜひそちらもチェックして、じっくりとラリーと観光を満喫する計画を立ててみてください。
私は渋川伊香保での取材を終え、帰路につく際に、伊香保からまっすぐに東京を目指さず、遠回りをして「頭文字D」の作中にも出てくる「碓氷峠」を通って、軽井沢に抜けました。
碓氷峠を越える国道18号の旧道は、全長約11キロの区間に大小様々なカーブがタイトに続きます。イニシャルDの聖地巡礼としてはもちろん、ドライブやツーリングのスポットとしても昔から有名です。
ラリー観戦でモータースポーツの興奮を味わった後に、ゆっくりと景色を楽しみながらドライブする時間は、忘れられない思い出になるはずです

まとめ
TOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジは、モータースポーツファンはもちろんのこと、普段あまり車に興味がないという方にも、ぜひ一度足を運んでいただきたいイベントです。モータースポーツファンなら、ラリー観戦を心ゆくまで楽しむことができますし、
そうでない人も、観光を目的に現地に出かけたついでにラリーという競技に触れてみることをおすすめしたいです。
実際に、全日本ラリーなどの上位カテゴリーのラリーを見たことをきっかけに、TOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジに参加を決めたという選手も少なくありません。
TOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジは、モータースポーツ観戦と観光、そしてドライブを同時に楽しめる、まさに一石三鳥のイベントです。ラリーという競技を通して、その地域を見ることで、きっとその場所に、これまで気づかなかった新たな発見があるはずです。
著者Profile
若林葉子/Yoko Wakabayashi
OLを経て、2005年からCar&Mototcycle Magazine『ahead』編集部在籍。2017年1月から3年半、編集長を務める。2009年からクロスカントリーラリーに挑戦を始め、2015年にはダカールラリーにHINO TEAM SUGAWARAのナビとして参戦した。現在はフリーランス。

Posted by
Drive! NIPPON編集部
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