雨の日にこそ出かけたい。山奥にひそむ桃源郷「東雲の里 あじさい園」(鹿児島県出水市)

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鹿児島県の北端にある出水(いずみ)市。名もなき地方都市の山奥にこれほどの場所があろうとは…。その風景を初めて見た時、“桃源郷”(古代中国の詩人・陶淵明の詩『桃花源記』に描かれている幻の理想郷)とはこんなところだったのかもしれないと思いました。
「東雲の里(しののめのさと)あじさい園」は、自然の起伏をそのまま生かした約4万坪の敷地におよそ10万株のあじさいが咲き乱れる大庭園。園内には築120年の古民家を移築したこだわりの蕎麦屋、石と土壁のギャラリー、穴窯、茶室、東屋、露天風呂などが点在。そのどれもが園主の手づくりというから驚きます。

ただひとり、荒れ山を開墾した日々

ただひとり、荒れ山を開墾した日々

「東雲の里 あじさい園」の園主、宮上誠さん(73歳)が、なけなしの50万円で購入した山の開墾を始めたのは46歳の時。その心にあったのは、20代の頃から温めていた「日本一のあじさい園をつくる!」という果てしない夢だけでした。当時営んでいた看板屋の仕事が終わると毎日車で30分かけて山に来て、ナタやカマなどを使って繁った木々を切り倒し、そこに自然石を敷いて道をつくり、山肌にあじさいの株を植えていく…。そんな地道な作業をひとりコツコツと雨の日も風の日も休まずに続けました。「周りの人からは変な目で見られ、誰からも相手にされんやった(笑)」。そんな頃に知り合ったのが現在の妻の真里子さん。23歳も年下の真里子さんは宮上さんの夢にかける強烈な情熱に惹かれ、その人生の伴走者に。やがて2人の息子にも恵まれ、宮上さんがひとりで見ていた夢は家族の夢になりました。

大自然そのものが壮大な美術館

大自然そのものが壮大な美術館

「東雲の里 あじさい園」の敷地内には澄んだ水が流れる谷川や滝、ホタルが舞う棚田などもあり、風景そのものが調和のとれた芸術作品のよう。「大地が僕のキャンバス。そこにどんな絵を描こうかと思いながら道をつくり、自然の調和を乱さぬように花や木を植えてきた」と宮上さん。「ただきれいなだけの花の公園ならどこでもある。でも、それじゃつまらんから」と笑います。東雲の里を彩るあじさいは約160種10万株ほど。中には国内外から集めた珍しい品種や宮上さん自ら交配して作ったという新種も。在来種である日本あじさいが多いのも特徴で、自然の中にさり気なく咲く楚々とした佇まいが“日本古来の侘びさび“に通じるとして、宮上さんが大切にしている世界観です。また、園内のあちこちに枝垂れ桜や紅葉なども植えられ、四季折々に趣の異なる“絵”を見せてくれます。大自然という名の壮大な美術館をゆっくりと散策してみてはいかがでしょうか。

息子が打つこだわりの蕎麦

息子が打つこだわりの蕎麦

実は、宮上さんには山の開墾を始めた当初から「美しい景観の中に最高の蕎麦屋をつくりたい」というもう一つの夢がありました。その夢を叶えてくれたのが、長男の覚光(よしみつ)さん(25歳)です。高校卒業後、熊本県南小国町にある蕎麦屋で修行し、帰郷後はさらに独学で蕎麦打ちを研究。2016年4月、東雲の里の園内に「生そば 草の居」をオープンさせ、母の真里子さんと共に店を切り盛りしています。覚光さんが打つのは、蕎麦本来の風味と香りが楽しめる十割蕎麦。毎朝、蕎麦の実を石臼で挽いて粉にしたものをすぐに打ち、“挽きたて、打ちたて、湯がきたて”の蕎麦を提供しています。「蕎麦の実を甘皮ごと挽き、荒くふるって麺にすることで、蕎麦の味と香りが格段に引き立ちます。まずは塩を少しつけて召し上がってみてください」と覚光さん。宮上さんの器に美しく盛り付けられた前菜やさり気なく添えられた季節の草花も目を楽しませてくれます。

「生そば 草の居」
■営業時間:11:30~蕎麦がなくなるまで(喫茶は11:30~17:00)
■店休日:毎週木・金曜日(祝日及びあじさい・紅葉の時期は無休)
■メニュー:かけそば・ざるそば(いずれも前菜付き)1,100円/ おにぎり110円/ コーヒー440円/ アイスコーヒー500円/ 手づくりチーズケーキセット720円など  
*すべて税込

芸術家・宮上誠のギャラリー

芸術家・宮上誠のギャラリー

鹿児島県内はもとより東京の銀座などで個展も開く陶芸家でもある宮上さん。陶芸だけにとどまらず、自然の素材を自在に操り、椅子やテーブル、照明、鉄製の薪ストーブまで何でも自作します。園内にあるほとんどのものが宮上さんの手づくりで、どれも一目見たら忘れられないほど個性的。上の写真は、基礎だけ大工さんに頼み、それ以外は宮上さん自ら仕上げたというギャラリーです。宮上さんの作品を常設するほか、あじさいや紅葉の季節には仲間のアーティスト(藍染めや木工など)とのコラボ展も行われます。

人生は「やるか、やらんか」の二択だけ。

人生は「やるか、やらんか」の二択だけ。

宮上さんが山の開墾を始めてから今年で28年。荒れ果てた山がこれほどの場所になろうとは誰が想像したでしょうか。いえ、ただひとり、初めからこの風景がはっきりと見えていた人がいます。それはほかならぬ宮上さん自身。「人生はやるか、やらんか、たった二択。金がない、時間がない…と言う人は多いけど、“絶対にやる”と決めたら、“ない”を“ある”にするアイディアが生まれる。助けてくれる人が必ず現れる。僕は一度、膵臓がんになって死にかけたけど、絶対に夢を実現させるという強烈な想いがあったから、生きてこの山に戻ってこられたと思ってますよ」。なんとも深く心に響く言葉でした。

〜まとめ〜

東雲の里のあじさいが楽しめるのは6月いっぱいですが、晩秋には紅葉、春には桜が山肌を彩ります。夏や冬場のお客様が少ない時期には、宮上さんとのおしゃべりをゆっくり楽しむことも。世界が大きく変わってしまった今、どんな時も前だけを見て進む宮上さんの姿に何か元気になるヒントをもらえるのではないでしょうか。

【東雲の里 あじさい園】
■所在地:鹿児島県出水市上大川内2881
■TEL:0996-68-2133
■開園:9:00~17:00
■定休日:毎週木・金曜日(祝日及びあじさいと紅葉の時期は無休)
■入園料:中学生以上500円(あじさいと紅葉の時期以外は無料)、小学生以下無料

(文:西郷 郁子)

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