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投稿日:2025.12.16 Tue

時代を映し、未来を占う Japan Mobility Show 2025

時代を映し、未来を占う Japan Mobility Show 2025

2025年10月30日〜11月9日、東京ビックサイトにて「ジャパンモビリティショー2025」が開催されました。延べ来場者数は約101万人。前回(2023年)の111万人を1割ほど下回ったものの、多くの人が会場を訪れ、盛況のうちに閉幕しました。東京モーターショーから名称を変えて2度目となる今年のジャパンモビリティショー2025。どんなショーだったのでしょうか。取材で感じたことや、気になるクルマについてレポートします。
取材・文:若林葉子

そもそもなぜ東京モーターショーはジャパンモビリティショーに名前が変わったの?

そもそもなぜ東京モーターショーはジャパンモビリティショーに名前が変わったの?

日本最大の自動車の祭典、東京モーターショーの始まりは1954年のこと。「第一回全日本自動車ショウ」として開催され、それが後の東京モーターショーの母体となりました。それから2019年の第46回まで長い歴史を刻みましたが、2021年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となりました。そして4年ぶりの2023年(第47回)に名称をジャパンモビリティショーと改めて、開催されました。

今、日本経済の屋台骨でもある日本の自動車産業は100年に一度の大変革期と言われています。地球温暖化対策としての環境規制の強化、持続可能性への社会的要請、IT技術を中心としたデジタル化など、自動車の製造・流通・利用のどの場面においても、大きな変化が起きているからです。

また、現在の日本の置かれている高齢化・人口減少の問題も、この大変革と深く関連しています。特に高齢化による「移動弱者」の問題は大きな社会問題となっています。トヨタ自動車が「Mobility for All(すべての人に移動の自由を)」を掲げ、自動車だけでなく幅広い移動手段やサービスを提供する“モビリティカンパニー”への転換を表明していることがこうした変化を象徴と言えるでしょう。

今、自動車産業に関わる全ての人たちが、持続可能な社会のために何ができるか。何を目指すべきかをそれぞれの立場で真剣に考えています。

ジャパンモビリティショー2025のターゲットは10年後の未来

ジャパンモビリティショー2025のターゲットは10年後の未来

名称が変わって2度目となる今年、ジャパンモビリティショー2025年は「Culture、Creation、Future」という3本の柱で構成されました。初回開催の2023年は思い切った未来志向の展示であったため、その大きなチャレンジが評価された一方で「現実離れ」し過ぎていて実感が湧かないという声も少なくありませんでした。
こうした意見も鑑み、点としての未来ではなく、日本のこれまでの自動車の歩み(過去)と現在を踏まえつつ、ここからつながる10年後の未来が「Tokyo Future Tour 2035」として提示されました。より現実味のある展示となったのが今回の大きな特徴と言えるでしょう。


未来のクルマはEV(電気自動車)だけじゃないというメッセージ

未来のクルマはEV(電気自動車)だけじゃないというメッセージ

ⒸTOYOTA「液体水素エンジンGRカローラ」

会期中に全ての展示を見て回って、全体を通して私がもっとも感じたことは、「未来のクルマはBEV(バッテリーを搭載した電気自動車)だけではない」というメッセージです。バッテリーEVはもちろんですが、次世代ハイブリッド、プラグインハイブリッド、合成燃料やバイオ燃料車など、持続可能な社会に向けた世界の自動車メーカーやサプライヤーの戦略は多岐にわたっているということ。

トヨタは新型MIRAI(水素燃料電池車)や、水素エンジンを搭載したレーシングカー、商用車や水素インフラの展示などで「水素の可能性」を大々的に発信しました。

時代を映し、未来を占う Japan Mobility Show 2025

Ⓒ(左)ヒョンデ 新型「NEXO」(右)ヤマハ「H2 Buddy Porter Concept」

ホンダは燃料電池電気自動車「CR-V e:HCEV」を展示、 ヒョンデは新型の燃料電池車(FCV)「NEXO」を日本で初公開しました。また、ヤマハ発動機はトヨタとの共同開発を示唆する水素オートバイのコンセプトモデル「H2 Buddy Porter Concept」を披露しました。水素満タン時の航続距離は実測で100km以上を達成しているそうです。

時代を映し、未来を占う Japan Mobility Show 2025

Ⓒ液体水素を搭載する三菱ふそうの燃料電池大型トラック「H2FC」

物流を担う商用車分野でも液体水素を搭載する三菱ふそうの燃料電池大型トラック「H2FC」をはじめとして、水素エンジンや燃料電池トラックのコンセプトモデルが多く展示されていました。

このように各ブースで「水素×内燃機関」や「合成燃料」など、脱炭素と多様化を両立させようとする技術的試みが見受けられ、「持続可能な社会のためには複数の技術解が必要」でありBEVもその一つに過ぎない、というのが今の自動車業界全体の共通認識なのだということを感じ取ることができました。

もっともキャッチーだったのはトヨタの新型「センチュリー」

もっともキャッチーだったのはトヨタの新型「センチュリー」

Ⓒジャパンモビリティショー2025年で正式デビューしたトヨタの新型「センチュリー」

モビリティショー2025には四輪二輪含めて30を超えるブランドが出展されていました。実にたくさんのクルマが会場を埋め尽くしましたが、その中でもひときわ私の目を引いたのはトヨタが発表した新型「センチュリー」でした。ブースではこの美しいクルマに惹きつけられるように、一目見ようと常に人だかりができていました。
これまでもセンチュリーはトヨタのフラッグシップモデルではありましたが、今回、レクサスを超える最上級ブランドとして独立させました。

レクサスはイノベーションとパフォーマンスを追求し、ユーザーのライフスタイルに合わせたモダンなプレミアムブランドであるのに対し、センチュリーは効率や流行に左右されない日本の美意識と最高の職人技を凝縮した唯一無二のブランドとしてより明確に位置付けられたのです。

時代を映し、未来を占う Japan Mobility Show 2025

センチュリーの開発がスタートしたのは1963年、終戦からわずか18年後のこと。

なんの伝統もないトヨタが世界に通用する最高峰の高級車など作れるわけがない、そんな声もある中、無謀とも言える挑戦をしたのは、戦後の日本にとって必要な「日本に生きる人間としてのプライド」を自ら見せたかったのではないか。――モビリティショー2025の豊田章男会長はセンチュリーのプレゼンテーションでそう語りました。

日本の心、ジャパン・ブランドを世界に発信していく。そんなブランドに育てていきたい。新型センチュリーにはそんな思いが込められているのだと思います。

もちろん普通の人が買えるクルマではありません。それでもロールスロイスやベントレーといった長い歴史と圧倒的なブランド力を持つ名門と並び、日本のおもてなしの心がつまったセンチュリーが世界の富裕層から選ばれる一台として認められる日が来るならば、日本人としてこんなに嬉しいことはありませんね。

BYDの軽EV「RACCO」に戦々恐々…?

BYDの軽EV「RACCO」に戦々恐々…?

最後に中国のEVメーカーであるBYDのモビリティショー2025におけるワールドプレミア、軽EVの「RACCO」についてご紹介しましょう。

BYDはもともとバッテリーメーカーとして1995年に創業し、携帯電話などの充電池で世界的シェアを確立。その後、自動車事業に参入しました。「RACCO」は日本市場専用に開発されたモデルであり、BYDの海外向けモデルとしては初の海外専用設計となるため、今回の発表はBYDの日本市場への本気度を示す根拠の一つとして注目されています。

日本は言わずと知れた軽自動車の牙城。軽自動車は日本の自動車市場における特異な存在、聖域と言っていいでしょう。そこにEVの軽自動車として初の両側スライドドアで乗り込んできた。そのことに日本のメディアは「黒船の到来か」とセンセーショナルに報じています。

時代を映し、未来を占う Japan Mobility Show 2025

もちろん、RACCOはコンセプトモデルであり、今後量産に向けて最終的な設計が行われ、日本国内で販売するための型式指定認定を取る必要があり、日本市場への実際の発表は2026年夏頃と言われています。

日本の消費者に人気のあるハイトワゴンかつ両側スライドドアを採用している点でも日本市場での勝算ありという声と、日本メーカーには軽自動車の長い歴史と技術の積み重ね、消費者からの信頼があり、そう簡単に売れるはずはないという相反する声がありますが、さてどうなることでしょうか。

いずれにしてもRACCOは日本の軽自動車市場を揺るがす可能性を秘めたチャレンジャーであることは間違いなく、今後の動向に目が離せません。

<まとめ>

皆さんはモビリティショー2025に行かれましたか? どんなクルマ、どんな出展が気になりましたか?

昨今の自動車をめぐる状況は厳しいものがありますが、そんな中でも将来のために懸命に次の一手を考える人たちがいるのだと、なんだか希望が持てました。ここには未来の“タネ”がたくさん撒かれていました。ここからたくさんの花が咲き、たくさんの実が成る未来を心待ちにしたいと思います。



著者Profile
若林葉子/Yoko Wakabayashi
OLを経て、2005年からCar&Mototcycle Magazine『ahead』編集部在籍。2017年1月から3年半、編集長を務める。2009年からクロスカントリーラリーに挑戦を始め、2015年にはダカールラリーにHINO TEAM SUGAWARAのナビとして参戦した。現在はフリーランス。

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Drive! NIPPON編集部

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