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みなさんは「和顔施(わがんせ)」という言葉をご存知ですか?
仏教には、私たちが幸せや安らぎの境地に至る道として「六波羅蜜(ろくはらみつ)」の行(ぎょう)があり、その第一番目が「布施(ふせ)」とされています。布施といえば、法要などでお坊さんにお経を読んでいただく際、御礼としてお渡しするお金のイメージがありますが、本来の布施とは「分け隔てなく施す」という意味。そして、お金がなくても実践できる布施の行が「無財の七施(むざいのしちせ)」であり、その一つが「和顔施」です。漢字通りに読むと「なごやかな顔を施す」。つまり、にこやかな顔、笑顔で人に接することがお布施になるわけです。
皆さんの周りにもいませんか? いつも笑顔がトレードマークの人。「この人、どうしてこんなに機嫌が良いのだろう? 悩みとかなさそうでうらやましい」なんて思ったりしますが、じつはそうじゃない。よくよく話を聞いてみると、人並み以上に苦労をしておられることがよくあります。
笑顔がステキな人は「また会いたい」と思わせてくれます。甘い蜜の香りがするお花のように、つい引き寄せられてしまいます。逆に、いつも眉間にシワを寄せている人は、発する言葉も大抵ネガティヴですから、なるべく距離を置きたい。「そんなこと分かっているよ」と思っていても、いざ実践するとなると、なかなか難しいものです。ですから私はパソコンの隣に2体の小さなお地蔵さんを並べて、自分が仏頂面(ぶっちょうづら)になっているなと感じたときは、その笑顔を眺めて「いかんいかん」と反省しています。
ちなみに「七施」というくらいですから、ほかにも6つありますが、それは次のようなものです。
・言辞施(ごんじせ=感謝や優しい言葉で接すること)
・眼施(げんせ=思いやりのある眼差しで接すること)
・身施(しんせ=重い荷物を持ってあげるなど身体で行う奉仕)
・心施(しんせ=善良な心を持ち、他者のために心を配ること)
・床座施(しょうざせ=席や場所を譲る、ひいては分かち合うこと)
・房舎施(ぼうじゃせ=自分の家を提供する。来客を温かくもてなす、風雨をしのぐために軒下を提供するなど)
まずは自分の出来ることから実践したいところですが、いずれにせよ、布施とは「見返りを求めない」ことが大前提。「ギブ・アンド・テイク」ではなく「ギブ・ギブ・ギブン」の精神です。資本主義の中で生きていると、つい対価を期待しがちですが、相手が喜んでくれたこと、誰かの幸せに貢献できたことが、何よりのご褒美かもしれません。まずは口角を上げて、はいニッコリ♪ まわりも自分も幸せになれる「和顔施」を心掛けたいものです。

Posted by
三角由美子 Yumiko MISUMI
東京・熊本でフリーペーパーの編集者を経て、フリーライターとして活動(熊本在住)。畳職人の長女として生まれ育ち、現在も畳のある暮らし。きもの・漆器・和菓子・お香・仏像・寺院巡りなど、ニッポンの伝統文化にトキめいています。
著書/『熊本カフェ散歩』、『くまもとの海カフェ山カフェ』