
※ 掲載記事に関して
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、紹介する施設によっては営業時間の変更や休業、イベントの延期・中止が生じる場合があります。また、情報は記事掲載時点のものです。お出かけの際は、事前にHPなどで詳細をご確認ください。
昔々、あるところ。
旅人が、老夫婦の家に一泊、泊まらせてもらうことになりました。
夜中にふと旅人が目覚めると、老夫婦の奇妙な会話が聞こえてきました。
「明日は、はんごろしにしようか。それともみなごろしがいいか・・・」
驚いた旅人は、血相を変えて逃げ出しました。
明る日、旅人がいないことに気がついた老夫婦はたいそう残念がりました。
「ありゃ、せっかく美味しい“はんごろし”を作ったのに」
徳島県に伝わる民話の一つです。「美味しい“はんごろし”」ってなんだ?と思うかもしれませんが、これ実は、おはぎのこと。物騒な名前とは裏腹に、甘さ控えめでちょっぴり塩味が効いたその味は絶品。大人から子供までファンの多い、徳島県那賀町の郷土料理です。
名前の由来は、その製造方法にあり。
はんごろしは、もち米にうるち米とヨモギを混ぜて作ります。炊いた米をすり潰して、こしあんを包んだら完成。この炊いた米をすり潰す際に、米粒が残る程度に“半分だけすり潰す”から「はんごろし」。ちなみに、米をしっかりとすり潰して作るおはぎは「みなごろし」と呼ばれています。
びっくりするような名前ですが、味もびっくりするくらい美味しいんです。
一般的なおはぎと違って、あんを包むもち米とうるち米のつき加減が少なく、しっかりとした食べ応え。一口頬張ると、ヨモギがふわっと香ります。あんの控えめな甘みと米のほんのりとした塩味、そしてうっすらと全体を覆うきなこの風味が、口の中で最高のマリアージュ。
名前に劣らぬインパクト。うん、最高!
はんごろしが食べられるのは、徳島市内から車で約一時間ほどの那賀町相生(あいおい)地区。昔から林業が盛んな地域で、まさに「日本昔ばなし」のような風景が残ります。川沿いの道をドライブして、ダム湖の湖畔にある小さな農産物直売所へ。大きく掲げられた「名物 はんごろし」の文字が目印です。
はんごろしは、那賀町相生地区のお母さんたちが「郷土の味を広めたい」との思いで、約20年前から市販を開始。今も有志のグループが一つひとつ手作りしています。
そのユニークなネーミングもあって、県外のファンも多いはんごろし。売り切れることもしばしばなので、農産物直売所にはなるべく午前中のうちに到着するのがおすすめです。
山の緑と川のせせらぎが美しい那賀町はツーリングのメッカでもあります。直売所の目の前には温泉施設「もみじ川温泉」もあるので、ぜひ休憩がてら立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
お母さんたちが作るとっても美味しい“はんごろし”。徳島に来たら一度は食べてほしい郷土の味です。

Posted by
甲斐 りかこ
徳島在住のライター、イラストレーター。生まれ育った千葉県から、オーストラリア、中南米、インド・ネパールなどを経て、2018年に四国の小さな港町へ移住。自治体PRのお手伝いもしながら、地域にある素敵なヒト・モノ・コトを取材しています。