COLUMN

土橋克己の「地方見聞録」

歴史あるまち並みと建物を今に活かす~彦根市、長浜市の成功事例

画像:黒壁スクエアHP

画像:黒壁スクエアHP

 今号では、私の愛する山梨県と同じカテゴリーとなる、47都道府県中8県しかない貴重な「内陸県」(「海無し県」ではない(笑))である滋賀県の2市を紹介します。

 滋賀県といえば、県土の6分の1を占める日本最大の湖・琵琶湖。周囲には緑豊かな山々や田園風景が広がり、悠々と水をたたえる琵琶湖と周囲が織り成す風光明媚な景色を楽しむことができます。

 この琵琶湖に面している市町は、10市4町もあります。
 このうち、全国的に中心市街地活性化が叫ばれながら成功した施策が少ない中、「成功例」と評価されている彦根市と長浜市を紹介します。

 まずは、湖東地域にある彦根市の夢京橋キャッスルロード。
 国宝「彦根城」の京橋口で石垣にさえぎられた角を曲がると、江戸時代の城下町が目に飛び込んできます。白壁と黒格子で統一された350mの街並みで、映画村のような光景です。

 この街並みが整備された1985(昭和60)年以前の道幅は6m。1603(慶長8)年の彦根城築城に伴って城下町が建設された当時のもので、交通事情にそぐなわないものとなっていました。
 街路整備事業を実施するにあたり、地権者の約80人は2年にわたる議論を重ねました。当時は民家と商店の割合が8:2という状況で、住民の「自分たちの地域を自らの力で創り、次世代へ引き継ぐ」という理解を得るのは大変難儀であり、多くの時間を要したのです。

 そこでリーダーシップをとったのが、小児科の診療所を開業していた医師でした。商店街振興とは直接的な利害関係がないことから、うってつけで、昼夜問わず地区住民の説得に回りました。また、自宅の居間を10数年間に亘り「まちなみづくり相談室」として無償開放。事業の推進を住民主導で行うことに尽力しました。この医師なくしては、歴史と伝統を今に活かし、建物の形態と色彩を新しい時代にマッチさせた城下町づくりは実現しなかったでしょう。

 商店街づくりのコンセプトとして、「商店街づくりは人づくりから」という言葉をよく耳にしますが、まさにその通りであります。
 大切なのは、勉強会などで意識の統一、向上を図ること。そして、まちづくりを「楽しい」と感じる気持ちです。地権者である商店主一人ひとりの意識向上が各店舗の魅力アップにつながります。夢京橋キャッスルロードでは、商店街の組織を強化するため、これまで任意組織だったものを商店街振興組合として立ち上げました。

 夢京橋キャッスルロードの成功のポイントは、論より実践にあります。そこに意思疎通まで図られているのですから強固なものです。
 まちづくりに欠かせないリーダー、そして、みんなで楽しく、良い時も悪い時も前向きな努力を怠らない姿勢が、取り組みを成功へと導きました。

 商店街振興組合の古くて新しい「OLD NEW TOWN」。
 このコンセプトが示す、古き良きを活かして新しい活気のみなぎるまちづくりをする心が、人をひきつけ呼び込んでいるのでしょう。

 次は、湖北地域にある長浜市の黒壁スクエアです。
 旧市街地の中心「礼の辻」に建つシンボル的存在の黒漆喰の建物は、1890(明治33)年に旧百三銀行長浜支店として建造されました。伝統的な土蔵造を基調としながら、軒蛇腹、上下窓、天井飾等の要所に洋風の意匠を取り入れた特徴的な建築で、「黒壁銀行」の愛称で市民に親しまれました。しかし、時代の流れから、取り壊しの危機が訪れます。これを救ったのが、1988(昭和63)年、旧市街の古建築の保存と再生のための博物館都市構想を掲げて設立された第三セクター「黒壁」でした。この第三セクターの一丁目一番地は、旧第百三銀行の保存と再生です。

 その「黒壁銀行」は、1989(平成元)年に「黒壁ガラス館」として生まれ変わり、1階は普段使いの一輪挿しや花器、2階はヨーロッパを中心とした伝統的なガラス製品を展示販売しています。

 この「黒壁ガラス館」のオープンにより、周囲の古建築の建物が派生的に美術館、工房、ギャラリー、ガラスショップなどに生まれ変わりました。文化施設、レストラン、カフェなどが集積するエリアでは、さまざまなガラス製品が約3万点も展示販売されていることから、日本最大のガラス芸術の展示エリアとして知られるようになりました。現在までに再生した古建築は30館に上ります。

 1991(平成3)年には、新快速が長浜駅まで延伸したこともあって観光客が増え続け、年間300万人を超す湖北随一の観光スポットに変貌を遂げました。

 彦根市・長浜市両市共に、永年の伝統に支えられた寂れた商店街の歴史性を踏まえ、その中に現代性を組み込んで成功しました。
 まちづくりといえば、往々にして景観、建物等のハード面に目が向けられがちですが、地域の活性化はハード面の整備だけで達成できるなら、全国津々浦々苦労しておりません。活性化には、多くの人が訪れ、賑わう行動文化の仕掛けが必要です。その内実を形づくるソフト事業の展開によってはじめて可能となります。

 その意味で、ソフト事業については、そこに住まう人々の愛着と誇りによる住民主導で進められることが重要であります。行政はまちづくりのアドバイザーとまちなみ修景に対し助成する役割とし、住民は様々な角度からみんなで知恵を出す作業を永年にわたって続けることです。地区計画の内容や建築物の制限に関する条例に至るまで徹底的に住民と行政が話し合いを重ね、自分たちの地域は住民自らの知恵と力で創り、次の世代へと引き継ぐという共通認識を得ることが成功の秘訣だと考えます。

 歴史あるまちは縁が深いことから、時代に対応しながら少しずつ変化を重ねていくことで魅力が深まっていきます。歴史ある風景は人と時間が築き上げてきたもの。だからこそ、守り、活かすことが今を生かされている私たちの使命なのでしょう。

 皆さん、全国各地で試みられている地域振興の模範的事例である、彦根市・長浜市へのドライブいかがでしょうか。
画像:夢京橋キャッスルロードHPのイメージ写真

画像:夢京橋キャッスルロードHP

今後の土橋の見聞予定地及びイベント出展予定

9月11日 やまぼこ探検隊 甲府市中心街を探れ(甲府市)
9月24、25日 2016東海・北陸B‐1グランプリin坂井(福井県坂井市)
11月19、20日 2016西日本B-1グランプリin佐伯(大分県佐伯市)
12月3、4日 B‐1グランプリスペシャルin東京・臨海副都心
平成29年2月11、12日 2017東海・北陸B‐1グランプリin富士(静岡県富士市)

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土橋克己/山梨県甲府市役所職員

1973年生まれ、甲府市出身。中央大学商学部(硬式野球部)卒業。甲府市役所に勤務する傍ら2008年、「甲府鳥もつ煮でみなさまの縁をとりもつ隊」結成。10年、ご当地グルメによるまちおこしの祭典「B-1グランプリin厚木」で最高賞のゴールドグランプリ獲得。11年、NPO法人こうふ元気エージェンシー設立。2014年、「甲府ん!路地横丁楽会」を立ち上げ、甲府市中心街の路地―横丁文化の魅力を発信する活動に取り組む。

【土橋克己フェイスブック】
https://www.facebook.com/katsumi.dobashi
【甲府鳥もつ煮でみなさまの縁をとりもつ隊ホームページ】
http://www7b.biglobe.ne.jp/~torimotsu/
【甲府ん!路地横丁楽会フェイスブックページ】
https://www.facebook.com/kofunrojiykocho?fref=nf

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土橋克己/山梨県甲府市役所職員

1973年生まれ、甲府市出身。中央大学商学部(硬式野球部)卒業。甲府市役所に勤務する傍ら2008年、「甲府鳥もつ煮でみなさまの縁をとりもつ隊」結成。10年、ご当地グルメによるまちおこしの祭典「B-1グランプリin厚木」で最高賞のゴールドグランプリ獲得。11年、NPO法人こうふ元気エージェンシー設立。2014年、「甲府ん!路地横丁楽会」を立ち上げ、甲府市中心街の路地―横丁文化の魅力を発信する活動に取り組む。

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