COLUMN


「Live! Love! Drive!」

鷹匠裕の「Live! Love! Drive!」

第10話『恋するクルマ』

   

えっ、話を聞いてくれるのかい?

そう、久しぶりに軽井沢に行く、なんて言うから、少し心に余裕ができたんだなって感じてたんだ。え?向こうで原稿一本、書かなきゃいけない?そう、それなら尚更、ネタのひとつも提供してあげようかな。キミとは短い付き合いじゃないしね。

話はね、「恋するクルマ」ってことだよ。

「恋人と乗るクルマ」って意味じゃない。クルマが、つまりボクたち自身も、恋をするってことなんだ。

ボクたちクルマはもう、だいたい乗り手である「ご主人様」が持っている中で、いちばん高級なコンピューターになっている。どう走るべきか、どこが調子悪くなる可能性がありそうか、どうやってブツカらないようにするか。そういうことを命じられなくても自分で考えてご主人様に伝えているんだ。最近でこそ「人工知能」なんて言われて脚光を浴びているけど、これはずっと昔から少しずつ身に着けてきた能力なんだよ。

それでも工場から出たときは、人間に喩えれば赤ちゃんだ。優秀な頭脳細胞は持って生まれてはいるけれど、まだ発達はしていない。あちこち走って、ご主人様はどんな乗り方をするのかってことを学習していって、一人前の「使える伴侶」になっていくんだ。

ほら、馬だって「人馬一体」って言うだろ?あれは馬が、乗り手のことを学習して、どうしたらその意志を忠実に反映できるかってことに務めた結果なんだ。もちろん、乗るほうでも、馬を気遣い、どうしたら持てる力を最大限に引き出してやれるかってことも考えるからこそ、お互いにうまく行くんだけどね。

ボクたちクルマも、馬と同じに、あるいはそれ以上に感情も知能も持っている。

これだけ賢く産んでおいて、恋愛のひとつもするなというのは、高校生は受験勉強さえしていればいいんだ、と言うようなものだ。そんな殺生な。第一そんな育て方をしたら、面白味も付き合い甲斐もないヤツになってしまうよ。人間だって、優秀なだけじゃなくて、激しい恋に身を焦がしたことや、思いに任せぬ片思いに涙を流した経験が厚みを増やしていくはずだ。

もちろん、ボクたちが工場からオギャーと生まれて、まず第一に好意を抱く相手はご主人様だ。だって、数あるクルマの中から気に入って選んでくれたんだ。好きでいてくれる相手に惹かれるようになるっていうのは、古今東西変わらない法則だろ?

最初の恋の相手になったご主人様のことを知ろうと思うし、どういう風にその愛情に応えたら喜んでくれるのか、一生懸命考えて努力するんだ。

そうやって考えたことの一部は、カーナビを通じてご主人様に報告したりはするよ。だって、ほんとうはボクらがアタマを絞って考えていても、ご主人様が自分で選んだっていう気持ちにしてあげることは礼儀じゃないか。安くないお金を投じて、このボクに生を与えてくれたのだから、ね。だから、クルマが密かに囁く言葉には、耳を傾けてくれる価値があるんだよ。

でもそのうち、ご主人様だけでなくほかにも、ボクたちの目が行くことが起きてくる。

それは例えば、ご主人様と一緒に乗るヒトだね。乗る頻度とか、行先とか、会話とかでどんな関係のヒトかって考える。いいなと思ったヒトとは長くうまくいってほしい。そう思う。逆に、「コイツ好かーん!」とか思ったときに、動揺していつものパフォーマンスが出せなくなるようなことはあるかもしれない。

それ以上の行動に出ることもあるよ。

そう言えばこんなことがあったよね。

あの頃キミは、ちょっと危ない相手と付き合い始めていた。キミのことを凄く好きであることは確かなんだけど、その表し方がちょっとキツいっていうか烈しかった。

もうひとり前から付き合っているヒトがいて、そっちとも別れられずにいることを感じ取った彼女は、ある行動に出た。助手席に乗った時に、ドアポケットにわざとイヤリングを片方落として行ったんだ。キミはそれに気づかずに、翌日もともとの相手を乗せて食事に行こうとしたね。

あのときボクは焦って、必死にどうしたらいいか考えた。もともとの相手が助手席のドアを開けてイヤリングを発見したら、大ごとになる。そこで、ドアが調子悪くなって外から開かなくなったように見せかけたんだ、ボクは。

「あれ?どうしたんだろ」と言いながら、呑気に運転席から体を伸ばして助手席のドアを開けようとしたキミは、落ちていたイヤリングを見つけて慌ててジャケットのポケットに仕舞った。そうしたら、なんということも無くドアは開いただろ?

あの女性は最近乗って来ないね。そんな嫌らしい手練手管を使うことを知って、キミが嫌気が差したのかな。もともとのヒトとはちゃんと続いているみたいだし、まあ安心したよ。「神の助け」だったと思っているかもしれないけど、あれは、ボクが咄嗟に考えた作戦だったんだぜ。大好きなキミを困らせたくはないからね。



そう、ここまで言ったらわかるかもしれないけど、ボクたちクルマの恋愛が人間と違うことがある。それは、相手が男性であっても、女性であっても愛せるってことだ。相手が男性なら自分が女性の役割になり、女性なら男性の役割を自分に与えるんだ。聖母のように優しく包み込み、人生の局面を見護るのか、逞しい行動能力を発揮してサポートするのかは、ご主人様次第ってことだ。同じメーカーの同じモデルのクルマでも、男になったり、女になったりするんだよ。そう、ボクはボクって自分のことを呼んで男っぽい言葉遣いをしているけど、女性で生きているんだ。キミが男にはまるで興味ないってわかっているからね(笑)。

ところで、ボクらの恋愛対象は、往々にして人間に留まらない。何だかあのクルマによく逢うなと思ったらナンバーが共通だったり、まったく今までは持つことを考えたことがないクルマに街角で目を奪われたりした、なんていう時は、99パーセント、クルマがそういう風に導いてるんだと思ったほうがいい。

それから、前にあの人とここを通ったな、ここの駐車場に停めて、なんてふとセンチメンタル・ジャーニーをさせちゃったりするのも、実はクルマがご主人に思い出してほしくて「ね、行こうよ」って囁いているか、もしかするとクルマ自身がもう一度行きたいと思ってるかのどちらかなんだ。今回の軽井沢みたいにね。



そうだな、体を接触させる楽しみはボクたちにはないね。それがもうひとつの恋愛の違いかな。プラトニック・ラブがボクたちの大原則。だから体を接して快感を味わう替わりにしようとするのは、自己表現なんだ。おしゃれしたり、思いがけないタイミングで能力を見せびらかすってことはよくある。

ドレスアップってクルマでも言うけど、ご主人様は、自分が乗るクルマをカッコよくしたい、そのことで自分もカッコよく見せられる、なんて思ってるかもしれないけど、そうじゃない。これはボクらがカッコよくしてって叫ぶか、おねだりしてるんだ。だって、ご主人は、中に乗っちゃったらクルマのカッコは分からない。それなのにそんなことに気を遣ったりお金を使ったりするのって、ほんとはおかしいだろ?

インターを、出たね。

何となくキミの人生に変化が起きようとしてるんだな、ってことは感じてた。

そしてそれが、もしかすると近いうちにボクとの別れにつながるのかもしれないってことも。だから誘ったんだ。カーナビの検索履歴で、不意にいちばん上に出したりしてね。

ご主人様がクルマを「買い替えようかな?」って思っている時はわかるんだ。だって、今回キミはまだ無いけど、大体はボクたち、つまりそれまでのクルマに乗って、新しい相手を物色に行くんだからさ。でも、ボクたちは、よほどのことが無ければそのことに反抗はしないよ。新しい人生、じゃなかったクルマ生を始められるように、ちゃんと手続きをしてくれたら、黙って身を引く。こっちも新しく素敵なご主人様に出逢えるかもしれない、って、割り切って気持ちを切り替えるんだ。言うじゃないか、「会うは別れの初め」ってね。

乗ってもらえなくなって、車庫で埃をかぶって眠らされているよりは、その方がずっといい。よく言う、買い替えようとしたら、クルマが嫉妬してわざと調子悪くなってみせるなんてことは、ちゃんと可愛がっていたらまずないはずだよ。

さあ、七曲りを越えたら軽井沢だね。上りのコーナリングは、マニュアルモードで楽しもうじゃないか。大胆にシフトダウンして、回転計を久しぶりにビュンって上げてほしいな。そうそう……もっと!

いい旅に、なりそうだね。

   

  • twitter SHARE
  • facebook SHARE
  • googlePlus SHARE

Posted by

鷹匠裕/作家

作家。コピーライターを経て自動車、旅行関係の短編・コラムのほか長編経済小説を執筆中。
タイトルのLive! Love! Drive!は深く愛するヴィンセント・ギャロの写真集による。

Posted by

鷹匠裕/作家

作家。コピーライターを経て自動車、旅行関係の短編・コラムのほか長編経済小説を執筆中。
タイトルのLive! Love! Drive!は深く愛するヴィンセント・ギャロの写真集による。

鷹匠裕の「Live! Love! Drive!」

Recommend
他のオススメ記事